サステナビリティ

インタビュー
大串卓矢
以下:大串

『神山まるごと高専』に実際にお伺いして、とても感動しました。このプロジェクトは何年がかりだったのでしょうか。

寺田親弘
以下:寺田

ぼんやり学校を作りたい、教育をやりたいと言っていたんですけど、明確に高専というキーワードが出始めたのが2016年だったと思います。具体的にアクションをし始めたのが2017年。

大串

6年で開校ですか。その間、よくモチベーションが保てましたね。ご自身ではどう感じていらっしゃいますか?

寺田

明確にキックオフしたのが2018年の8月。それからもう引けなくなっちゃったノーリターンのタイミングが2019年の6月21日の記者会見です。その時に、もうこれで引きかえせなくなったなみたいな感じで。だからモチベーションを保っていたというよりは、徐々に自分自身を追い込んでいたという方が正しいかもしれません。もうやるしかない、という状況ですね。

大串

なるほど。社内ではどういう議論があったのですか?

寺田

2019年の6月に記者会見した段階では僕自身は表に出ていましたけど、理事長をやるつもりなかったんです。どちらかといえばビッグサポーター、大株主的なイメージを持っていたんです。だから会社とは切り分けて考えていました。でも、だんだんと政治的な観点やタイムスケジュールが生まれてくるなかで、意を決し自分でやるとなったときは、社員のみんなにSansanも神山まるごと高専も責任を持ってしっかりやります、という説明をして理解をしてもらったと思います。

大串

従業員とか社員は多分賛成だろうけど、株主とかは実際にどうでしたか?

寺田

相手によって言い方を変えましたけど、自信を持って言えることは両方とも全力でやったってこと。自分に約束したこととして、どちらから見ても言い訳にならないようにしようと思っていたので、それはかなり自分を追い込みながらやったと思います。

大串

プライベートの時間を削った、みたいな感じはありますか?

寺田

多少はありますかね。ただコロナ禍だったので、働き方がぐっとシフトしたじゃないですか。そうすると寄付のお願いなど、本来は実際に先方にお伺いして話さなければならないことも、車の中からバーチャル背景でも成り立ってしまう。一日に15件とか打ち合わせを入れられる環境だったので、密度を上げた感じですかね。平日の朝から夜まで、移動時間も含めて隙間なく稼働させるみたいなやり方で進めていました。

大串

15件とかヘトヘトになりますね。

寺田

なぜやったかという原点に戻ると、社会事だったからです。自分だけでなく、周りの多くの人を巻き込んでいるので、それによって生じる責任感でなんとかやり切れた感じですね。

大串

そんな思いから生まれた学校で見た子どもたちはどうでしたか?

寺田

もう最高ですね。午前中はSansanの仕事をして、午後は先生と話したり、学生と一緒に議論したり…まだまだいろいろなことがありますけど、みんな楽しそうで最高だなって。15歳の若者が日本全国から44名もやってくるといろいろあるわけですけど、それも含めて最高だなと思いました。

大串

みんなどんな大人に成長していくのでしょうね。

寺田

高専は5年なので、まだ全然わからないですけど、例えば起業家講師が来校して特別授業を行う『Wednesday Night』というものがあるんですけど、かなりのインパクトだと思っています。毎回いろんな起業家がやってきて、自分の生い立ちとか背景を喋っていくわけです。これは相当なコンテンツだと思います。加えて日常のなかでデッサンからプログラムがあって、普通の一般科目もやる。寮生活なので、みんな時間はあるんですよね。そのなかでいろんな部活を作って、近所の農家を手伝うとか、サイエンスだとか、SNSだとか…それぞれ好きなことをやっています。その光景はなかなか圧巻だなと思いました。

大串

教育の環境ってやっぱり大事ですね。

寺田

神山という地で学ぶ、ということを前提に入学してきていますからね。受験して、意思を持ってやってきているので、よくできていますよ。何となく来た子はひとりもいない。「モノをつくる力で、コトを起こす」とか「起業する」というキーワードが心にあるので。

大串

みんな意識が高く意欲的ですね。

寺田

大串さんは、なぜ『脱炭素』なんですか?

大串

脱炭素は、20歳ぐらいからずっと言っています。小さい頃から環境にすごく興味を持っていて。自然環境もあるけど、自分で頑張れる環境作りとか。例えばザワザワしたところだと落ち着かないけど、自然のなかのパワースポットみたいなところに行くと、すごく頑張れるみたいな。いろいろ大学で勉強しているうちに、周りは都市工学や建築をやっていましたけど、なんかそういうのはつまらないなと。

寺田

環境でもいろんな側面、見方がありますね。

大串

ホーキング博士の講演を聞きに行ったときに、地球と同じような星って宇宙にありますか? と聞いたところ、彼は「あるよ」って答えてくれました。でもUFOで地球にやってこないじゃないですか、と問いただしたところ、博士は「それぐらいの高度な文明を持つと、自分で自分の環境を壊してしまって自滅する」って。あれ、これって地球も同じ運命だなと。

寺田

実際、人為的に気候が変わったりしますしね。

大串

私はこれを何とか変えたい、地球環境をテーマに何かやりたいなと思ったけど、当時は『環境ビジネス』というものはなかった。大学の先生に相談すると、環境庁に行けばいいんじゃないの? となる。役人かNGOくらいしかなかった。それぞれ検討しましたが、やはり私はグローバルにビジネスという観点からやりたいと思い、まずは会計士になったんです。そこからいろんなベンチャーを回って、ビジネスってこうやってやるんだというノウハウを学んでいったんです。

寺田

面白いアプローチですね。

大串

『PwC』という会社に入って、IPOを目指している会社や寺田さんのような方にインタビューをしたり。そういったことを新卒のときからすぐに出来たので、すごく面白かったです。そうしているうちにPWCで環境ビジネスをやってもいいという話になり、子会社を作って活動を始めたんです。そんな折の2005年「カネボウの巨額粉飾事件」というのがあって、上司が逮捕されて子会社の話が立ち消えになったので独立し、2007年に現在のスマートエナジーを起業しました。

寺田

2007年だとうちと同じですね。お話を聞いているとすごく一貫性がありますね。ザ・ビジネスというよりは、ものすごくピュアな印象を受けました。いまのビジネスモデルになったのはいつ頃ですか?

大串

2017年ですね。

寺田

ちょうど僕が高専と言い始めた頃ですね。いまのビジネスモデルにされてから、ご自身のビジョンに変化などはありましたか?

大串

私は環境問題解決のためのいろんなノウハウとか、シンクタンク的な存在になりたいと思っているんですけど、実際はそんなことばかりでは売り上げが伸びないない。そういうジレンマはあります。でも地球環境問題解決のためという大義からは外れてはいないので。

寺田

いま地球環境問題解決という山は、何合目ぐらいでしょうか?

大串

宇宙船地球号じゃないですけど、まず人類は地球をコントロールしようと考え始めています。人口がこれだけ増えて、生き残っていくためには、限られた空間をどう設計してやっていくのかと監督する時代です。この流れに反対する人はもうほとんどいないですよ。

寺田

そういった意味でも、いまやっていることは宇宙船地球号の実現に向けての、かなり重要なピースであるということですよね。

大串

もちろん、その一環ですけど、必要な要素はほかにもいろいろあって、水とか食料とか。とくにエネルギーに関して言うと、タイムスパンを100年ではなく、1000年とか1万年とした場合、もう石油とかには頼れないなって思います。だからもうそれを止めますというのは正しい方向性です。これからは再エネで生活できるようになると思うし、「昔の人は石油っていうものを使っていた」という話になるかもしれません。

*神山まるごと高専
「テクノロジー×デザインで人間の未来を変える学校」。をコンセプトに2023年4月徳島県神山町に誕生した私立高専。起業家精神を学び、モノをつくる力でコトを起こす人を学生像として、社会の即戦力となる人材を養成していく。
https://kamiyama.ac.jp

プロフィール

寺田親弘(てらだ ちかひろ)

Sansan株式会社 代表取締役社長/CEO
大学卒業後、三井物産株式会社に入社。米国・シリコンバレーでベンチャー企業の日本向けビジネス展開支援を行い、帰国後は子会社の経営管理などに従事。2007年にSansan株式会社を創業し、営業DXサービス「Sansan」をはじめとした「働き方を変えるDXサービス」を提供。21年東証一部(現東証プライム)上場。23年に開校した私立高専「神山まるごと高等専門学校」の理事長に就任。

大串卓矢(おおぐし たくや)

スマートエナジー 代表取締役 社長
子どもの頃より環境問題に興味を持ち、地球温暖化防止をテーマとして働くことを決意。環境問題に対してビジネスのアプローチで取り組むため、公認会計士となり大手監査法人にて環境サービスを始める。2007年に「脱炭素をビジネスのチカラで」をコンセプトにしたスマートエナジー社を設立。CO2削減につながる仕組みを考え、実現させることに奮闘中。