未来は大事だなと思いますし、それを担うのが人材だと思っているので。それに私は日本人として、日本の子どもたちの能力を伸ばしてあげたいなと思うし、それにはやっぱり教育はすごく重要だと思っています。その意識を持った人がゼロから作ったっていうリスペクトがあったからです。
ありがとうございます。『神山まるごと高専』を実際に見て、大串さんが持たれているビジョンとかミッション感とかを、何か投影できるものと重なるものは感じられましたか?
それはすごく感じました。スマートエナジーは、地球環境問題を解決したいっていう人が集まってきて、そのなかでいろいろな工夫をして「こういうものできませんか」と実行していく場にしたいと考えています。だから同じだなと思って見ていました。私がやりたいものをやってくれっていうのではなくて、自分でやりたいものを作って、それをビジネスとして成り立たせていくこと。いろんな意味で共感できました。
ありがとうございます。彼ら彼女たちにとってみたら、本当にあの環境でいいと思います。最先端の教育をやりながら、あの環境は自然がむき出しの場所なので、何か起きるかも、という大きな期待は持っています。教育は長いですから。二、三十年経ってようやく社会的な評価をされるだろうと思いますし。
20年生き残っている企業ってすごく少ないじゃないですか。あとベンチャーにとっての20年ってすごく長いですよね。だから学校とか教育のタイムスパンとは、だいぶ違うんだろうなと思います。
それは全然違いますね。『神山まるごと高専』に関しては、20年プロジェクトを始めていた、という自覚はまったくなかったですし。普段会社で新しい商品を作るのに今月末までに出来ないか、というやりとりをしますが、それとは全然違うじゃないですか。そのコントラストにとても豊かさを感じます。スマートエナジーとして、今後の野望みたいなものはお持ちですか?
野望ですか。やっぱりインターナショナルに活躍したいというのがあります。そういう理想のもとで、日本の市場だけではなくグローバルな存在にならないと。
僕はシャープに物事にコミットする感じをすごく大事にしていて、だからあれやっています、これやっていますみたいなのって、あんま好きじゃないなって思っていたんですね。『神山まるごと高専』を始めたときも、最初はあくまでも『Sansan』がビジネスの主戦場で、学校はサイドプロジェクト、個人のプロジェクトだって割り切っていました。それが結果ダブルコミットになった。自分自身が言い出したものに周りを巻き込んで、良かったか悪かったかというのはわかりませんが、自分を正当化する意味でも良かったと思うようにしています。大串さんは、スマートエナジーからちょっと離れた視点でやりたいことはあったりしますか?
やっぱり教育でしょうか。いまはうちの子どもと周りの友達にビジネスを教えています。
すごいですね。それは会った時、不定期にですか?
月に1回きちんと教えています。レストランに行って、ここを経営するとしたらどうする? とか。その時によって違いますけど、大体5、6人に対して教えていますね。
それは楽しいから、やっているんですか?
そうですね。相手が自分のちょっとしたアドバイスで変わる感じがあるのが楽しいですね。レストランに行って、キャッシュフロー的な話とか、実際に自分がどうやったらこの店を作れるか、あまりそんな観点で考えないじゃないですか。
僕の父がそうでした。だからレストランやどこかの街やホテルに行ったときに、いろいろと聞かされていたので、それが身についています。
寺田さんのような人を育てるには、日々の考え方を学んで行かなければ。それも具体的に。このレストランの開業資金はこれくらいで、平米数がこれだとそこに何名のスタッフを入れるとか。それで時間と客単価を計算して売り上げを算出する。
それを中高生に面白く教えるって、相当なテクニックが必要なのでは?
結構反応はいいですね。
それはよっぽど面白いってことですよ。一度聞いてみたいな。
いや、単純にそういうのが面白いと思う子が集まってくれていると思いますよ。
大串さんは、会社のなかでも教育者、人材を育てるという意識はお持ちですか?
それはかなり意識しています。自分の会社だと逆にあんまりうまく言わないかな(笑)。寺田さんは意識されていますか?
結果やっているんだろうけど、人に向き合ってその人を育てるって感覚が弱いですね。物事に向き合って、結果として人が育つ、育てるという感覚はありますけど。僕は大串さんのように教えることに楽しさを覚えるタイプではないです。『神山まるごと高専』も教育者的な観点でなく、アントレプレナーとして創った感覚のほうが強いです。
逆に私の場合は、そういう場を作りたくてスマートエナジーを創業した感じです。だからみんながそれを感じてくれて、環境問題に向き合って勉強し成長してくれたらいいな、と思っています。
いま会社としての課題は何ですか?
大きい課題は、まずはIPOしなきゃいけないっていうのがあるので、きちんと経営計画通りにものごとを進めるというのがあります。ただそれをやっていくには、まだ個人の力が足りないというのがある。例えばお客さんに対して、社員がプレゼンするのに慣れていなかったりする。ここ5年ぐらいで社員が3倍の300人ぐらいになっているけど、200人くらいは入社歴が平均1年。彼らがスマートエナジーとしてお客さんにプレゼンできるようになるところを何とかしたいなと考えています。
小さい課題は何ですか?
新規のビジネスモデルを計画通りに立ち上げるとか。
そっちを小さいと言って、先ほどの社員教育を大きいというのは、すごく人柄が出ますね。逆という人の方が多い気がします。個人的な課題はありますか?
これも会社のことになってしまいますが、スマートエナジーを大串商店から脱却させることです。
それを個人の課題とすると会社での動き方を、相当変えなければならないですよね。
だからなるべく口を出さない。
それはよく言いますよね。僕の場合、自分より社歴の浅い経営者とかスタートアップに権限委譲どうやってきましたか、という質問をされます。実際にはあまり意識したことはないんです。採用から外れるとき以外は、あんまり悩んだことないのが本音のところです。
業務を任せるってことですか?
自分でやらなくていいことは、自然とやらなくなってしまいます。興味がないとか、自分がやることじゃないと思ったら任せるというよりも自然とやらなくなっている。大串さんは孤独を感じることはありますか?
あんまり孤独は感じていないです。寺田さんは?
ほぼ感じたことはないですけど、僕の場合は創業から一緒にやっている2人がいるからっていうこともあるかもしれません。5人で始めて2人は辞めていますけど、僕を入れて3人残っているんです。その2人にはやっぱり全然違う感覚がありますね。なんかパートナーというか。それが孤独感を癒してくれているのかもしれません。
なるほど。創業者が持つ鉄板の悩みのひとつですね。
ただ未来永劫やるわけじゃないと考えた時に、みんなは「辞めます」と言える相手がいるのに、俺だけ相手がいないんだなって思います。
『Sansan』はこれからどうなっていくんですか?
実はこの10年、アメリカで商品を出したり、インドにチーム作って攻めてみたり、シンガポール、タイでいろいろやっているんです。でも全然規模感が小さい。ぶっちゃけビジネスゴールだけで言ったら、国内でいいと思うんですけど、でもやっぱりもう僕を含め創業メンバーとしては、グローバルをやらないと死ねないというか。
なるほど。
上場して思うのは何でも定量化しなきゃいけないし、定量化しやすいことが多いので、普通に時価総額で1兆円をやろうとかね。多分1兆円達成したら次は10兆だとか考えるでしょうけど。なんか資本主義のこのラットレースに乗っている感じだと思うので、それはもう百も承知で。逆に学校には自分の野心とか野望も重ねていない。作るまでで、あとは見守っている感じが大きいですね。それが多分健全かなと思います。
やっぱりグローバルは目指したいですよね。
元々そういうつもりで始めましたから。いまごろ世界を5回ぐらい変えているはずなのに、16年経ってもこんな感じ? みたいなところもあるわけです。つまり始めるときって、ダウンサイドって0(ゼロ)でしかないけど、アップサイドはめちゃめちゃ上を見ているじゃないですか。「成功しておめでとう」とよく言われるんですけど、小さい頃にメジャーリーガーになってワールドシリーズでMVPを取る、みたいな話からするとまだまだ小さいです。
見る角度によって成功の意味合いは大きく変わってきますからね。グローバルに出ていくときって、結構ローカルの人が多いんですか?
いまはシンガポールとタイ、フィリピンに拠点があって、フィリピンは開発拠点なので20人くらい。タイは駐在事務所として日本人とタイ人がひとりずつ。シンガポールは10人ぐらいいて、シンガポール人が半分ぐらいかな。
そう見るとインターナショナルになってきていますよね。
いやまだまだです。海外の売り上げが半分以上を占めるとか、そういう数字が伴わないと。
~ 最後にスマートエナジーの株主としてメッセージを ~
大串さんの人柄がもっと世に出ていけばいいと思います。そのままの感じがあるととても素敵だなと。
ありがとうございます。私に対するありがたいメッセージとして受け取って頑張ります。
*神山まるごと高専
「テクノロジー×デザインで人間の未来を変える学校」。をコンセプトに2023年4月徳島県神山町に誕生した私立高専。起業家精神を学び、モノをつくる力でコトを起こす人を学生像として、社会の即戦力となる人材を養成していく。
https://kamiyama.ac.jp
寺田親弘さんとの対談を終えて
寺田さんは、すでにメディアで有名になった亀山高専PJ、これを発案し、準備し、実現させた。不可能なプロジェクトを実現させた男としての凄みがあります。数百億円の寄付を集めるという途方もないことを成し遂げるために、寄付集めのプレゼンテーションを毎日数回、合計何千回も実施したと聞きました。上場企業の社長としての責務を全うし、なおかつ、移動の時間さえ惜しんで、車内からプレゼンテーションをして、プロジェクトを実行する。普通できないことをやってしまう男のパワーを感じました。(大串卓矢・筆)
このたびは『神山まるごと高専』に寄付をいただき、ありがとうございました。どういった観点で、決めていただけたのでしょうか。