以下:大串
どれくらいのスパンで活動されているのですか?
週末の土日と火曜日の学校終わりに2時間ぐらいの平日練習をやっています。野球人口が減ってきていることを考えた場合、「練習時間が長い」「厳しい環境が多い」とよく耳にしますが、それ以上に親御さんへの負担が大きな問題と考えています。監督、コーチへのお茶出し当番とかグランド整備とか、子どもが中学生になると本人よりも親御さんが野球やらせたくないという話も聞いたことがあります。そんな状況を改善できないのかということで、ひとつのモデルケースになるようなチームを作りたいということが始まりです。一番は野球を楽しんでもらえること。だからチームコンセプトは「明るく・楽しく・元気よく」です。
活動されていて手応えはありますか?
子どもたちの成長がものすごく見えます。最初は挨拶も出来ない子がたくさんいたのですが、活動を重ねていくとそれがなくなってきました。もちろん技術的なことも教えますが、それ以上に「キャッチボールは相手に対する思いやりが大事だよ」と伝えると、その気持ちがまとまってきて、ちょっとずつだけどひとつのチームになろうとしている。野球を通じて、相手のことを考えるということが出来るようになってきました。
自分の行動に対して自信を持つと精神的にも鍛えられると思います。中学生のときに他人に対する思いやりを持てるようになると、大人との関係性、親、先生、コーチとも段々と打ち解けてきたりもしませんか。
確かにそれはあります。実際子どもたち同士でキャッチボールするなかでも、暴投をしたら「ごめん」と声を掛け合いがないからプレーしないと、続かないということがわかってくる。各々がそういうコミュニケーションを自発的に取ることは、すごく大事だなと思っています。
自発性は大切ですね。
僕らもそうだったのですが、やっぱり甲子園を目指すといった厳しい環境でやると、ちょっとやらされてしまうところとかも出てくる。それでいて、監督やコーチには発言できない。そういうふうに育った部分もあったのですが、それってどうなのかなと疑問に思ったのです。やっぱり野球が終わったときのことを考えると、その先の道に進むためには、やっぱりコミュニケーションを取って自分の考えが、いまどうなのかを発言でき、しかも相手の言い分を聞けることが大切です。高校、大学、社会人になってからではなく、早い段階でやっていけるよう工夫していけたらいいなと思っています。
スポーツ選手は、コミュニケーション能力もすごく重要だなって感じますね。
いまある環境に感謝して、そういった部分をしっかり学んでいくことが、今日またひとつ上手になれることにつながっていく。やっぱり考えて動くことが自分の糧になります。そのことを選手ひとり一人が感じとってくれるといいな、という思いでやっています。大串社長は会社・組織を運営するうえで難しさを感じられることはありますか?
まず会社は株主に対し経済的価値を還元していく。うちの会社であれば気候変動を解決して利益を上げていくのですが、そのなかでミッションを少しずつ達成していく。そのためには、大人でも自分で考えて行動することがとても重要になってきます。でも、これがなかなかできない。上司から言われたことだけをやっていると、奥行きがないというか、単純な発想だけに終わってしまう。自分で考えて、修正して、そして発信してくことが積み上がったときに組織としての厚みができて、出来ることが増えていくと思っています。なんとかそういう個人をひとりでも多く育てていきたいですね。
会社もひとつのチームということですね。
やっぱりいろんな人がいますから、なるべく話し合って配置しないとチームが回っていきません。野球でも選手が本当にやりたいポジションってあると思うんですけど、組織でもやっぱりいろんなところを経験させて、性格やスキルに合った場所を担当してもらう。そうすると、やっぱりすごく楽しく仕事をしてくれる。そういった部分は感じます。
ポジションの適性はありますね。
最近はあまり長時間働かせてはいけないという風潮があります。だからこそ会社が終わった後にどれだけ頑張れるかで、全然理解度が違ってきます。だからといって、野球の練習と同じで単に長くやればいいってものではないから、そこが難しい。
そうですね。僕たちも基本的には土日しか全体活動を行っていないので、プレーの技術を向上させるためには、平日どれだけ自主トレーニングをやるかだよ、と子どもたちには伝えています。
本当に時間の使い方って大切ですね。社会人も子どもたちも回数じゃなくて中身。機会を作ってコミュニケーションを取って、あとはどれくらい自分で頑張れるかが勝負。どれだけバット振って、走られるか。同時に笑いながら楽しんでくれればいい。それを繰り返していくうちに自然と限られた時間内にやらなきゃいけない、と考えるようになるんじゃないでしょうか。
少しでも考えて行動できるようになればいいですね。どうやったら足が速くなるのか、どうやったら遠くへ飛ばせるのか、考えながら練習してほしい。でもいまの子どもたちは、言われても理解できなくて動けなかったりすることも多い。そこにどう踏み込んでいくか。野球界が抱えるガバナンス問題を考える時期に来ているからこそ、慎重に考えています。
*青山ボーイズ
野球の技術と共に、思いやりの心・仲間との絆・ 広い視野で物事を見るおおらかな心を育むために、シアトル・マリナーズ 特任コーチ 岩隈久志氏によって作られた野球チーム。
以下:岩隈
プロ野球を引退してから、僕自身何ができるのかというところで、やっぱり野球で社会に恩返しをしたいという思いがありました。高校野球だと難しい部分もあったので、まず中学生、小学生といった、ちょうど思春期に入る頃の子どもたちをみてみたいなという思いから「青山ボーイズ」* を立ち上げました。