サステナビリティ

インタビュー

中編 ― 野球界の未来とエネルギー業界のこれから ―

大串卓矢
以下:大串

いまの野球界をどう捉えていらっしゃいますか?

岩隈久志
以下:岩隈

少子化の影響もあり、やはり競技人口は減っています。日本のプロ野球は昔からあるので、野球界としての体質はなかなか変わらない部分もあります。例えば、サッカーは『Jリーグ100年構想』で地域に密着し、その裾野を広げていく活動を行っている。その結果、きちんとしたピラミッドの形ができているというか、MLBもすべてピラミッド型になっています。

大串

スポーツだけでなく、少子化によって働き手が減っていくという問題は、今後日本が直面する課題でもありますね。

岩隈

少子化とはいえ、やっぱり野球人口が減っているのは、なにか原因があるんじゃないかな? と思っています。元々野球選手だった自分が、中学生たちに教えているチームがあるというのは、やっぱりいろんな人に知ってもらって、選択肢のひとつになるといいかなと。野球のレベル自体は、日本はすごく上がってきていて世界で通用する選手が本当に増えてきているので、そういった部分でもサポートしたいと考えています。

大串

小さな島国から世界に通用する選手が出るっていうのは、すごく嬉しいことですね。

岩隈

僕はMLBも経験しているので、いろんなことをみんなに伝えていかなきゃいけない立場です。アメリカと日本野球の大きな違いっていうのは、やはりアメリカは自由にやりなさいと言われるだけあって、子どもたちは楽しそうに野球をやっている。実際に子どもたちからもそういう発言が多い。それでいて技術を見せる場がしっかりと設けられている。目標を持ちながらも楽しくできているからこそ、プレー自体も自分で考えている部分も多いのかなと感じます。

大串

日本は体育会系、軍隊式みたいなものが残っていたりしている印象があります。個々の能力を伸ばすというよりかは、統率力みたいなそっちの意識が強いのかなと思ったりします。

岩隈

日米のいい部分はどちらもすごく大事だと思います。両方経験した立場からすると子どもだけでなくプロでも、日本に足りないのは、楽しみながらやる部分でしょうか。人って何かを始めるときは「楽しい」から始めると思うんですよ。やっぱそこを伸ばしてみたいというイメージは持っています。

大串

人口が減ってくと、やっぱり必然的に子どもの取り合いになりそうですね。

岩隈

僕らの時代であれば、地域のクラブチームに入ったりすることが多かったです。でも最近は強い硬式チームを選んで遠方から通うとか、そういう形も多いですね。ただ、青山ボーイズに関していうと人数制限を設けています。グランドも限られているし、指導者も少ないので1学年20人までとさせていただいています。なるべくひとり一人をしっかりと見たいというのが方針なので。入団に関しては、ただ上手い子だけ入ってくれればいいということではなく、きちんと挨拶ができる、声が出せる、自発的にボールを拾いに行けるとか、そういうアクティブに動けるような子を選んでいます。

大串

運営していくなかで、やっぱりどうしても結果を求めてしまう。中学生は選手としてはもちろん、人間としても成長の過程で、すごく悩ましい時期ではありますね。

岩隈

勝てばみんな嬉しいし、勝てば勝つほどより上を目指したい、という気持ちになるかもしれません。でもそこだけにフォーカスして欲しくはないです。とくに中学生の子たちはそこで野球のピークを持ってきて欲しくない。中学生って、本当に難しい時期です。やっぱり思春期を迎え、いろんな考えや恥ずかしさも出てくるので、そこをどうやってケアしてあげるかっていうことに試行錯誤しています。

大串

新入社員もそうだと思いますよ。社会人になるって、環境の変化に対応できるか否かは重要です。さらに会社っていろんなところから人が来るから、社員同士のコミュニケーションがなかなか取れないジレンマがあります。

岩隈

違う背景があると余計に難しい部分がありますね。エネルギー業界自体はどうなんでしょうか?

大串

ここ最近は季節外れの気温だったり、大雨だったり、いろんなことがありますが、これらはすべて気候変動なんですね。何十年に1回みたいな感じで言っていますけど、それが毎年続くようになってきている。悲しいかな人間って、身近に感じられるようになって、初めて問題に対して興味を持ちます。温暖化の問題って、実は価値観の問題です。我々がエネルギーをたくさん使うのは、幸福になりたいとか贅沢をしたいと思うから。そうするとやっぱりエネルギーをいっぱい使ってしまうんですよ。温暖化だからあんまり使わないでくださいって言えばいいんですけど、みんながリッチになりたい。使っていない人たちからすると、使っている人たちに対して不満が出てくる。

岩隈

エネルギーの消費は人の価値観によって大きく変わるんですね。

大串

これをどうやって解決するかというのは、いろんな方法があると思っています。温暖化って科学的な問題なのに、やはり精神的な問題だし、経済的な問題でもある。だからこそ、いろんな背景の人が入ってきて欲しい。私は政治的に解決したいっていう人が入ってくれてもいいし、突飛な発想で芸術の力で、音楽の力で、と言ってくれる人たちがいてもいいと思っています。

岩隈

いろんなアプローチで、この問題に貢献したいなっていう人を育てるということですね。

大串

会社では独自に目指していますが、でもそればっかりでは売り上げや利益に繋がっていかない。どうやってバランスを取っていくかが大切です。私たちは、やっぱり株式会社という形をとっているので、株主、取引先、銀行に対して、数字で説明する必要がある。これだけ利益が上がっていて、売り上げも伸びています。だからいい会社でしょうみたいなことです。でもこの説明だと社員たちには全然響かないです。だから全体的には利益向上のマインドを持ちながら、個人のやりたいことを引き出していければいいかなと思っています。

岩隈

勝利を目指しながら個々の能力も向上させるみたいな考え方ですね。チーム運営と似ていますね。

大串

取り組み方がすごく大事です。やっぱり「社会のために」ということ。この純粋な気持ちをなくしたくないと思っています。野球もそうだと思いますが、技術的な部分はもちろん、やっぱり正しい姿勢を伝え、教えていかなきゃいけないですよね。走る力と同じように、社会人で言えば時間を守るとか挨拶するとか。大人としての基盤がないと、自分が思っているような道へは進めない。

岩隈

そうですね。エネルギー業界全体の問題とか課題ってありますか?

大串

どこの業界でもあるのですが、既得権益に立ち向かうみたいなところ。これはすごく叩かれてしまう。でもいまは、業種としては開放されてきたので、業界全体が伸びてきているっていうのはあります。ただ、エネルギー問題をビジネスとしてワールドワイドに考えた場合、アメリカや中国の企業に対してどう戦っていくかっていうのを考えていかないといけない。もうパワーが全然違います。例えば我々が資金調達すると数千万単位ですけど、アメリカの企業は何百億円調達したとか。10倍以上の金額差がつくと経営戦略は20倍くらい違う。だから単純にどう戦っていくか知恵を絞らなきゃいけない。グローバル戦略に関しては、野球界にも通じるところがあるかもしれません。

岩隈

おっしゃる通りです。日本はまだまだ閉鎖的だと思います。少し変われば、みんながハッピーになれる、もっともっと目指せるものがたくさん出てくるはずです。

*青山ボーイズ
野球の技術と共に、思いやりの心・仲間との絆・ 広い視野で物事を見るおおらかな心を育むために、シアトル・マリナーズ 特任コーチ 岩隈久志氏によって作られた野球チーム。
https://www.iwakuma-boys.jp

プロフィール

岩隈久志(いわくま ひさし)

シアトル・マリナーズ特任コーチ

堀越高から1999年ドラフト5位で近鉄に入団。2年目に4勝を挙げ頭角を現すと、03年から2年連続15勝。04年には最多勝、最優秀投手に輝く。05年楽天に移籍。08年に21勝を挙げて最多勝と初の沢村賞を獲得。11年オフに海外FA権を行使しマリナーズと契約。メジャー2年目開幕から先発ローテの一角に定着。13、14年と2年連続2ケタ勝利。15年はノーヒッターも記録。

大串卓矢(おおぐし たくや)

スマートエナジー 代表取締役 社長

子どもの頃より環境問題に興味を持ち、地球温暖化防止をテーマとして働くことを決意。環境問題に対してビジネスのアプローチで取り組むため、公認会計士となり大手監査法人にて環境サービスを始める。2007年に「脱炭素をビジネスのチカラで」をコンセプトにしたスマートエナジー社を設立。CO2削減につながる仕組みを考え、実現させることに奮闘中。