サステナビリティ

インタビュー

後編 ― 個人貢献の未来と社会のあり方 ―

大串卓矢
以下:大串

青山ボーイズでは、どういう未来像を描いていらっしゃるんですか?

岩隈久志
以下:岩隈

勝利することがすべてではないというお話をしましたが、勝つ喜びを知ってほしいというのもあります。大会に向けては、そのマインドで子どもたちと一緒に頑張っていきたいと思っています。でもそれ以上に、やはり楽しく野球ができるという方が重要で、発信していけるモデルケースになれたら嬉しいです。とくに僕自身はNPB、MLBの両方を経験したので、そのノウハウやいいところを伝えていきたいと考えています。

大串

自らの経験を子どもたちに伝えていく、というのはとても貴重なことですね。

岩隈

野球は小学校から中学校に上がったときに、走る量などが劇的に厳しくなったりします。さらに高校に行くと、ちょっとしたミスも許されないような環境で野球をやったりします。僕自身もちょっと苦しかった思い出があります。そうなると自分を出せなくなってしまう。アメリカ行ったときに、チームメイトから「こわばった顔で野球やっているよ」と言われたんです。さらに「もっと楽しく映画みたいにやれよ」みたいな感じ言われて。いや、これでもすごく楽しんでやっているんだけどなって思ったんですけど、でも周りからするとまったくそうではなかった。メジャーで戦っているクラスの選手って笑顔が多いし、楽しく野球をやっている。やっぱり原点はこうだよなと思ったんです。

大串

野球の本場で見つけた原点ですね。

岩隈

楽しくやるという部分を伝えて、それでいて強くなる。難しいですけど。負けて悔しい、というのをバネにしている子をみると本当に嬉しいです。なぜならスポーツは勝者ばかりを生むわけではない。負けて悔しいからまた頑張ろうっていう気持ちを持つ子がたくさんいる。出来なかったことが出来るようになったときに喜びがある、だからもっと先に進もうという気持ちにもなってもらえる。その循環が大切だと思っています。

大串

そういう気持ちを忘れずに成長できれば、社会に出たときに自分のやりたい仕事に力を注いでいけるような形になってくれるかもしれませんね。経験がいい財産になりますよね。

岩隈

中学生のときに学んだことで、一生覚えていることもたくさんあります。自分たちが教えた子が大人になってまた中学生たちに伝えてくれる。野球の指導だけでなく、間違っていることをきちんと正せるような人間になってほしい、そんな未来像を描いています。大串社長が描く会社の未来像はいかがですか?

大串

気候変動の問題は今世紀中には解決できないかもしれません。でもだからこそ一生を費やす価値があると思っています。うまくいったり、いかなかったり、その繰り返しのなかで、自分の喜びを見つけていく。気候変動の問題に対処するために、多くの人はNPOを選びました。でも寄付だとなかなかお金が集まらないし、活動する範囲が狭まれてしまいます。私は、自立できる組織、自分の力で立ち上がって好きな方向に進めていく、ということで株式会社を設立しました。結局、社会課題って、周りとの携帯(ギブアンドテイク)が必要なんです。だから野球の試合に勝つと同じように、会社としてはやっぱり売り上げを伸ばしたりとか、利益を上げたりっていうのはとても大切なことだと思っています。

岩隈

同じ志の人が集まってくればやっぱり嬉しいですね。大串社長のお話を聞いていると、中学生の子どもたちだからこそ、今後のことも考えて指導もしていかなきゃいけないなと強く感じました。

大串

日本人って自分の考えとか思いを伝えるのが下手じゃないですか。そういう教育も受けていないし。私は意識してコミュニケーションを取ることは重要だよと思っています。こうして岩隈さんとご縁をいただき、青山ボーイズを通じて個人の社会貢献活動をサポートさせていただく。こうして対話してみるとお互いの想いや社会に対するアプローチがより明確になって、とても意義のあることだと強く感じました。野球界もエネルギー業界も世界と共闘していくこと、個人としても会社としても岩隈さんの活動を応援しています。

岩隈

ありがとうございます。いい未来予想図が描けました。

*青山ボーイズ
野球の技術と共に、思いやりの心・仲間との絆・ 広い視野で物事を見るおおらかな心を育むために、シアトル・マリナーズ 特任コーチ 岩隈久志氏によって作られた野球チーム。
https://www.iwakuma-boys.jp

岩隈久志さんとの対談を終えて

野球を通じて成長したから、「野球で社会に恩返しをする」。とくに日本の子供たちに社会勉強をさせること。礼儀はもちろん、チームメンバー、コーチ、友達の両親とのコミュニケーションの取り方など。当たり前のことが大事という姿勢に感銘を受けた。強いチームを作ることが目的と捉えがちだけど、それよりももっと大切なことを教えている。

人を育てることは、手間もかかるし儲からない。それを敢えて、実際に自分でチームを立ち上げて運営する行動力。一流の人は、やはり思い立ったら「すぐにやる」と改めて思い知った。岩隈久志さんは、とてもナイスガイ。自分もそうなりたい。(大串卓矢・筆)

プロフィール

岩隈久志(いわくま ひさし)

シアトル・マリナーズ特任コーチ

堀越高から1999年ドラフト5位で近鉄に入団。2年目に4勝を挙げ頭角を現すと、03年から2年連続15勝。04年には最多勝、最優秀投手に輝く。05年楽天に移籍。08年に21勝を挙げて最多勝と初の沢村賞を獲得。11年オフに海外FA権を行使しマリナーズと契約。メジャー2年目開幕から先発ローテの一角に定着。13、14年と2年連続2ケタ勝利。15年はノーヒッターも記録。

大串卓矢(おおぐし たくや)

スマートエナジー 代表取締役 社長

子どもの頃より環境問題に興味を持ち、地球温暖化防止をテーマとして働くことを決意。環境問題に対してビジネスのアプローチで取り組むため、公認会計士となり大手監査法人にて環境サービスを始める。2007年に「脱炭素をビジネスのチカラで」をコンセプトにしたスマートエナジー社を設立。CO2削減につながる仕組みを考え、実現させることに奮闘中。