サステナビリティ

インタビュー

中編 ― マイナースポーツの産業化と女性活躍推進の現状 ―

大串卓矢
以下:大串

PODが掲げる「社会還元を日常に」の取り組みの一つとして、スポーツ支援を行っていらっしゃいますが、なぜスポーツに注目されたのでしょうか。

松本勇二
以下:松本

PODではESGの観点から企業価値向上をサポートする「ソーシャルブランディング」という事業を行なっており、ESGの「S」である「社会」を軸に、スポーツ業界などさまざまな企業のブランディングを支援させていただいています。そのためスポーツ業界の方々とは日頃から接点があり、「社会還元を日常に」の取り組みの一つとして、スポーツ支援を行うことになりました。
2023年3月に、社会に対する熱い思いを持ったアスリートたちを支援する「POD Games」を立ち上げたのですが、設立のきっかけは、2022年10月にある食事会でスケートボーダーの藤澤虹々可選手に出会ったことでした。彼女は怪我のため、東京五輪への代表選考会に挑戦することができませんでしたが、とても有能な選手の一人です。藤澤さんは熱意を持ってスケートボードの魅力を語ってくれた一方で、スケートボードという競技が抱える課題についても話をしてくれました。まず、女性選手が圧倒的に少ないこと。そしてスケートボードが、大会などでトップを目指す競技組、そして映像やパフォーマンスに特化するクリエイター組に二分されていることで、純粋にスケートボードを楽しみたいという人が参加しにくい状況があること。このような問題を解決し、性別関係なく多くの若者がスケートボードを楽しめる環境をつくりたいという彼女の願いを、なんとかカタチにできないかと思ったことがはじまりです。

大串

「POD Games」設立後には、30名の女性スケーターを招いたイベントも実施されましたね。スマートエナジーはスポンサーとして協賛させていただきましたが、会場に伺って驚きました。私の世代からすると、スケートボードはストリートのイメージがあり、どちらかというとやんちゃな子供たちの遊びという感覚がありましたが、お互いの技を褒め合っている姿を見て、そのイメージが大きく変わりました。

松本

そうなんですよ、素晴らしい文化ですよね。スケートボードが流行した1980年代は、街中を滑走する若者が多く、近所迷惑な存在として捉える人も多かった。しかし現在はオリンピックの競技としても認められ、お互いを褒め合う独自の文化が生まれています。ビジネスの競争社会で生きる我々こそ、こうした若者から学ぶものは大きいと考えています。今回のイベントでは、初心者向けの体験や、誰でも楽しく滑ることができるスケートセッションなどを行い、多くの方にご参加いただきました。今後も他競技においても、アスリートの想いをカタチにした活動を行っていきたいと思っています。

大串

スケートボード以外にも、「社会還元を日常に」の活動は広がっているのでしょうか。

松本

スポーツの産業化に寄与できることがないかと、さまざまな取り組みを行っています。その一つに、あるアメリカンフットボールチームに対し、PODから1名スタッフを派遣し、営業活動の支援をさせていただいています。我々はこのチームのスポンサーでもありますが、アメフトの収益のほとんどがスポンサー収入のみというのが現状です。そのため潤沢な資金がなく、自分たちで何かをしたくとも、行動に移すことができない。その現状を少しでも変えることができないかと、試行錯誤しているところです。
例えば、アメリカのメジャーリーグは産業化されていますが、日本はまったくできていない。そのため、今若い人でスポーツをキャリアにしたいという人が少ないですよね。日本ではスポーツが持つ公共性により、何か失敗を犯してしまうとメディアで取り上げられることが多い。スポーツに携わる人は、清く正しくといった品行方正が求められてしまうという側面もあります。また、スポーツで利益を出すことを善としない風潮もある。これは再生エネルギーと同じで、NPOやボランティアといった無償、あるいは必要最低限の資金で取り組むことが当たり前のような認識がある。特に先ほどお話ししたスケートボードなどのマイナースポーツは、利益を出す仕組みがない。それ故、選手たちは練習後にアルバイトをしなければ生計が成り立たないなど、ギリギリの生活をしています。とはいえ、投資家の目線でスポーツを見ると、利益を生む構造をつくらなければ投資をすることは難しい。だからこそスポーツを産業化する意義を常に意識して、社会にどういうインパクトを出せるのかを模索しています。

大串

松本さんはビジネスでの成功体験を多くお持ちなので、資本の活用方法だけでなく、組織をどのように機能させれば継続性を生み出せるのかといった知見がおありになる。松本さんならではの知見を導入することで、スポーツの産業化に貢献することができるのではないかと期待ができますね。

松本

そういっていただけるのはとても嬉しいのですが、やはり簡単にはいかないだろうなと捉えています。再生エネルギーと同じく、時間をかけて取り組んでいく必要があると。そもそも最低限のインフラが整備されていないので、そこをなんとかしたいですね。選手はもちろん、スポーツに携わっている方々には強いパッションやエネルギーがあり、常に未来志向で大きな夢を抱いている。けれど引退後のセカンドキャリアにおいては、就職先がないなどの課題が必ず出てしまう。多くの人に感動を与えてくれる存在であるにも関わらず、報われるシステムがないという状況を変えたいと思っています。その一歩として、スポンサーの立場からスポーツ界の構造を把握し、自分たちができることに対して挑戦を続けていきたいですね。

プロフィール

松本勇二(まつもと ゆうじ)

POD株式会社 代表取締役/スマートエナジー社外取締役
ゴールドマン・サックス証券株式会社で、マネージング・ディレクターを務め、ジャパン・リニューアブル・エナジー株式会社の創業、株式会社エコグリーン、株式会社スマートエナジーなど再エネ関連の投資事業に従事。2022年にPOD株式会社を設立。「社会還元を日常に」をモットーに、企業やアスリートのCSR活動やソーシャルブランディングを支援。潜在的に有望な産業にフォーカスをあて、事業規模を一気に拡大し、その分野における代表的な企業を創出する「ビルドアップ投資」も行なっている。
POD株式会社 代表取締役/スマートエナジー社外取締役 松本勇二

大串卓矢(おおぐし たくや)

スマートエナジー 代表取締役 社長
子どもの頃より環境問題に興味を持ち、地球温暖化防止をテーマとして働くことを決意。環境問題に対してビジネスのアプローチで取り組むため、公認会計士となり大手監査法人にて環境サービスを始める。2007年に「脱炭素をビジネスのチカラで」をコンセプトにしたスマートエナジー社を設立。CO2削減につながる仕組みを考え、実現させることに奮闘中。
スマートエナジー 代表取締役 社長大串卓矢