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コラム 未稼働案件の「価格切り下げ」とFIT法の改正

再生可能エネルギーマーケット コラム
第1回-未稼働案件の「価格切り下げ」とFIT法の改正

~FIT法改正の動き~
去る8月5日、経済産業省において総合資源エネルギー調査会の小委員会(※1)が開かれ、2020年にも固定価格買取制度に関する法律(※2)の改正を目指す方向で議論されました。これが実現すると、2012年の同法施行以来、導入が進んできた太陽光と風力発電について、固定価格での電力買取制度から別の制度への切り替えが進むことになります。同省がまとめた中間整理案では、再エネ事業者自らが販売先を見つけたり、電力卸市場で売電したりすることを求める代わりに、「投資回収について一定の予見性を確保できる仕組み」を目指すとされています。
これは、太陽光と大型風力については、導入の初期段階としてFITが一定の役割を果たしてきた一方で、太陽光発電への導入偏重、初期の高価格案件の未稼働、再エネ賦課金として国民負担が増大してくるなどの問題が顕在化してきた状況の是正という側面に加え、FITの次の段階として、今後は入札制への完全移行を通じてコスト低減を加速すると同時に、競争を促進するという意図があるものと思料されます。

FIT後を見据えた動き(いわゆるPost FIT, After FIT)については、これまでもそのポイントや課題が関係者間で議論されてきました。特に、FITなしでも事業性を確保するために、①誰に電気を販売するのか、②いくらで販売するのか、③何年契約とするのか、について検討が必要と言われています。特に、①、②について、市場連動価格での買取が主流となった場合、いくらであれば事業性が維持されるのかについては、環境価値(非化石証書)の売却や発電プラントの施工費(kW単価)、設備利用率等に係る想定が重要とされます。

~「未稼働案件」への需要拡大~
FIT法施行以来、システム単価の逓減が図られてきているとして、毎年10%程度ずつ買取単価が下げられてきました。それに伴い、認定容量(既稼働及び未稼働)は2013年度をピークとして減少傾向にあります(図参照)。特に、27円案件以降の認定数の落ち込みは激しく、32円以上案件が全体の80%を占めており、事業用太陽光発電マーケットの主力であることが分かります。

【図】事業用太陽光発電の未稼働案件の状況
(出典:総合資源エネルギー調査会 省エネルギー・新エネルギー分科会/電力・ガス事業分科会
再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会(第17回))

~「未稼働案件」への措置~
そうした中、2018年12月5日には、経産省から事業用太陽光案件の長期未稼働案件への措置(制度改正)が公表されました。2014年度以前の認定案件(買取価格32円・36円・40円/kWh)のうち、未稼働案件を一掃することが主旨とされるものですが、それに先立って同年10月になされた特措法施行規則(※3)の一部改正に対するパブリックコメントを踏まえ、2MW未満の案件については系統連系工事着工申込期限が本年3月末日、2MW以上の特別高圧の案件については本年8月末目途とされました。さらに、個々の案件の事情も踏まえ、林地開発許可取得と環境アセスメントの対象となる案件については、提出期限が2020年2月末目途、受領期限が同3月末日とされました。

~足元のメガソーラー市場動向~
上記措置が取られたことで、足元では太陽光マーケットに流通していた2014年度以前の高買取価格の「未稼働案件」(プライマリー案件)の総数が減り、より実現度が高いとされるものが残るのみとなりました。さらに、系統連系工事着工申込の提出後に事業計画変更(事業者変更を含む)を行った場合、買取単価の変更事由にあたることから、プライマリー案件の流通の停滞を招く可能性が否定できません。
同様に、今後、2015年度認定案件については2020年3月末日、2016年度認定案件は2021年3月末日の着工申込(2MW未満案件)が求められることから、これまでの設備認定やみなし認定の取得を裏付けとしたプライマリー案件も今後マーケットから姿を消していくものと推測されます。

~稼働済み案件を対象とする措置ではない~
未稼働案件に対しては、①将来的な国民負担増大、②新規開発・コストダウンの阻害、③系統容量の空押さえに対する対策がこれまでに累次にわたり講じられてきており、事業用太陽光発電については実際に数千万kWの失効が確認されたり、「3年ルール」による調達期間の短縮措置が講じられていることなどから、既に稼働開始済みの発電所を所有されている事業者様などから、自社の発電所が今後こうした措置の対象(買取単価の下落、買取期間の短縮など)となるのではないかと心配する声を耳にします。
少なくとも、上述の2018年12月5日公表の「未稼働案件への新たな対応」や資源エネルギー調査会の小委員会においては、稼働開始済み案件に対する措置には触れられておりませんし、今後予定されている措置も、既述のとおり「事業計画認定済み未稼働案件」を対象とするものであり、稼働開始済みまたは諸条件を充足する未稼働案件を対象とした措置ではないため、自社の発電所のステータスに照らした状況の把握が必要です。

 

※1:総合資源エネルギー調査会 省エネルギー・新エネルギー分科会/電力・ガス事業分科会 再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会(第17回)
※2:電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法、通称FIT制度
※3:電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法施行規則

 

<文責>
株式会社スマートエナジー
マネージャー
戒能 雅紀