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国内クレジット制度の振り返り

パリ協定発効が確実になったので、CO2削減に改めて焦点が当たりそうである。改めて、過去に書いた国内クレジット制度の振り返り原稿を再掲します。
国内クレジット制度5年間の成果
京都議定書目標達成のための重要なツールであった国内クレジット制度、J-VER制度がこの3月でピリオドを打つ。4月から両制度は一つの制度として統合され、新たに新クレジット制度(名称は未定)としてスタートする。新制度が始まる前に、既存制度の成果を見直し、その教訓をきちんと活かす必要がある。今回は、国内クレジット制度の評価を行う。

制度概要

国内クレジット制度、J-VER制度は2008年秋に開始された。2008年は京都議定書の約束期間がスタートした年である。京都議定書の6%削減目標に対して、日本政府は、「京都議定書目標達成計画」という、閣議決定を経た政府の計画により、その目標を確実足らしめようとした。そのなかで、各産業界が定めた「自主行動計画」はCDMと並んで重要な削減施策であったが、自主行動計画を持たない中小企業への行動支援プログラムが求められた。それが国内クレジット制度であった。中小企業が大企業の支援を受けながら、CO2削減事業を実施することを枠組みとして定めたのである。
J-VER制度は、日本にカーボンオフセットを根付かせようという運動のなかで始まった。カーボンオフセットには、CO2クレジットが利用されることが多いが、そのクレジットを海外のプロジェクトではなく、国内のプロジェクトで生み出すことを可能にした、その枠組みを定めたものである。

制度の成果

5年間の運用成果は、どうだったのか。国内クレジットは登録プロジェクト数が1267件(他に登録待ち361件)であり、発行されたCO2クレジットは累計65万トンである。J-VER制度は、独自の森林吸収クレジットが好評であり、登録されたプロジェクトが245件となった。これらのプロジェクトを推進するために延べ数万人以上の活動があったと推定される。本当に多くの人が参加したプログラムとなった。
また、CO2削減量を計算する方法を定めた「方法論」も、合わせて87種類となり、CO2削減量を計算する方法が明確になった。その上、両制度は個別のプロジェクト毎に、事業計画の詳細が開示され、ケーススタディを実施する上で、非常に重要な材料を提供している。
しかし、改善すべき点は多いにある。特に、65万トンしかた削減量がないことである。日本は毎年12億トンのCO2を排出しているが、これから10~20年で、10%、20%は削減しなければならない。その目標に対して、1000万トンレベルのCO2が削減できなれば、政策ツールとして有用とはいえないだろう。

新制度の設計の糧に

両制度が、CO2削減量の計算、その認証、プロジェクトを創出という分野で一定の成果を出せたのは評価できる。更に制度を有効にするには、その削減量を10倍にすることが必要となる。それにはいくつかの課題があるが、そのなかで最重要論点は、クレジットの買い手問題と、CO2削減活動の実施者の問題である。
クレジットの買い手問題は、排出権取引が仕組みとして機能するために最も注意を払い考えるべき事項である。EUの排出量取引をみると、買い手の創出に関する成功失敗が、制度の成功失敗につながっていることがわかる。それくらい重要な論点なのだが、「誰」が、「どのくらい」お金を払う必要があるのか、その決定方法は公平性・効果性が求められる。この点は、京都議定書の次の枠組みを決める会議(COP)でも、最も揉めているところでもある。新クレジット制度では、買い手として政府を考えるべきか、あくまでも民間同士のスキームとするかが議論のポイントとなろう。
次に、削減量を10倍に増やす仕組みを考える必要がある。これは、再生可能エネルギーを増やすための全量買取制度を一つの成功例として見習うべきである。太陽光発電の買取価格40円は、CO2換算すると10万円程度になっている。つまり、そこまでの覚悟でCO2削減を支援する仕組みを作れれば、削減量も10倍になるのではないか。また、コストをかけなくとも、大企業にはブランド価値をあげるというメリットを与える方法もある。そうすれば、大企業も新クレジット制度で、CO2削減量の認証を国からもらうという明確化、みえる化を積極的に活用しようという機運が生まれるのではないか。

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出典:国内クレジット認証委員会資料