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平成2178

 

米国下院での気候変動対策法案の可決をうけて

 

投資戦略部 根岸 博生(内藤 彩)

 629日、米国下院において気候変動対策法案が可決された。上下両院が地球温暖化対策に本格的に取り組む法案を可決するのは初めてのことである。賛成219票、反対212票と僅差ではあったが、オバマ大統領が当選前から最重要課題の一つとして掲げていた地球温暖化対策にとって、大きな前進となった。

 この法案は産業界がより環境にやさしいエネルギーの利用へ転換することを促し、米国の温室効果ガス排出量を2005年比で2020年までに20パーセント削減、2050年までに83パーセント削減することを目標としている。その方策として、温室効果ガス排出主体間で排出許可証の取引を行う排出量取引制度(キャップ・アンド・トレード制度)導入と、風力や太陽光など再生可能エネルギーへの投資を行うことなどが挙げられている。それに加え、環境対策に伴う新規雇用を創出し現下での経済・景気への刺激策とする目的と、温暖化対策の次期国際枠組み(ポスト京都議定書)の交渉で主導権を握ることにつなげる目的もあるとみられる。

 次に、法案における排出量取引制度の具体的な内容について見ていきたい。まず対象となるのはエネルギー部門、産業部門の排出源となる。具体的には、化石燃料を多量に消費する発電源、化石燃料起源の液化燃料等の製造を行う固定排出源及び輸入業者、天然ガス供給会社、石油化学製品製造会社等が指定されており、いずれも年間25000t以上のCO2を排出する企業が対象となっている。(図1)

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  1 ワックスマン・マーキー法案の概要

 

全排出権の内、13パーセント(20122019年排出枠の1%、20202029年排出枠の2%、20302050年の排出枠の3%分)がオークション用に取り置かれ、残りが各部門に無償で割り当てられる。 無償割り当ての対象となるのは、()エネルギー部門、()貿易集約型産業、()消費者/労働者、()エネルギー技術、()適応(適応プログラムの運用者)()森林伐採回避、()その他 となっており、この割り当てられるキャップの量は2012年の4,627百万tから2018年までは5,269百万tにまで一時増加し、その後2050年の1,035百万tまで引き下げられる計画となっている。(図2

 

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2 ワックスマン・マーキー法案の削減シナリオ

出典:環境省市場メカニズム室「ワックスマン・マーキー法案について」

 

この法案では米国全土を巻き込んでの排出量取引制度となるわけだが、既に州レベルでの排出量取引を開始している事例が数件ある。北東部10州において今年1月から取引が始まっているRGGI、カリフォルニア州の地球温暖化対策法、米国西部7週及びカナダ2州で行われているWCI、米国6州、カナダ1州で行われているMGGAだ。環境省の資料によれば、このうち2011年末までに発行されたカリフォルニア州、RGGIWCIの排出枠は、本法案の排出枠との交換を行うことが可能となる。

 

今回の法案は民主党のヘンリー・ワックスマン議員とエドワード・マーキー議員によって提案されたものであり、「ワックスマン・マーキー法案」とも言われる。2009年の331日に発表した資料を515日に修正したものが、エネルギー・商業委員会を賛成33 票・反対25 票・無投票1票で可決され、今回の下院本会議での審議にこぎつけた。これ以前にも、オバマ大統領が上院議員時代に共同提案者として参加していた「サンダース・ボクサー法案」、上院の環境・公共事業委員会では可決されたものの本会議での採決には至らなかった「リーバーマン・ウォーナー法案」等が提示されてきた。ブッシュ政権下では、経済成長・市場原理主義が強調され、排出削減努力はほとんどなされてこなかった。「グリーンニューディール政策」「国際協調」を打ち出したオバマ大統領の就任を契機に、本格的な政策立案を求める機運が醸成されたことが、今回の法案可決に結晶したと見ることができる。

今回の可決はまだ「通過点」であり、今後、上院での審議が待ち受けている。下院での可決も僅差であったことを考え合わせると、上院の議論では更なる政治的対立と地域ごとの利害対立が激化することが予測される。また、下院通過に際しても数々の妥協を経て「角が削られた」形となっているため、この法案が可決されたとしても国際社会(特に欧州諸国)には不十分であると批判される可能性もある。現段階においても、一部の環境活動家や大企業には支持されているものの、環境至上主義といわれるNGO団体からは批判を受けている。

12月にコペンハーゲンで開かれる気候変動枠組み条約第15回締約国会議(COP15)を目前に、気候変動問題・温暖化対策に関する議論が熱を帯びてきた。温暖化対策への取り組みにおいて、各国の政治的利害が表面化している今、このCOP15での交渉の内容が今後の世界への影響力を決定付ける要因になり得る。これまで温暖化対策に消極的だった米国では、交渉のイニシアチブをヨーロッパに握られる事の危機感が増し、オバマ政権成立を契機とした今回の法案可決に繋がった。また、交渉難航の一因である途上国参加の是非について、温室効果ガスの主要排出国である中国やインドに対し、排出削減への積極的取り組みを促す目的も伺える。

今後は、米国の排出削減目標・温暖化対策の一層の強化を求めるヨーロッパ各国・中国インドなどの圧力と、国内産業の保護、育成、競争力強化を求める米国内保守派の圧力の狭間で米国の目標着地点を見出す作業が始まる事になる。

 

 

(参考)

環境省発表資料「諸外国における排出量取引の実施・検討状況」

Web; govtrack.us "H.R.2454: American Clean Energy and Security Act of 2009"

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